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ここはいったい何処だろう・・・どうしてこんな所にいるのか思い出せない・・・
寒い、寒い、何時も着ているはずの皮鎧が無い・・・
バックパックを覗き込んでみても、あるはずの物が無い・・・
インゴットに刀、それに秘薬の入った袋に小銭が少々・・・何故こんなものが・・・
バックパックの中をかき回していて、恐ろしいことに気がついた、
手が、手の指が、まるで見習いの丁稚のような綺麗で幼い手になっている・・・
「これじゃ、まるで初心者プレイヤーだ。」
俺は訳もわからずに走り出した、とにかく何かしなくては・・・
走りながら見る景色は、いつもと変わらないベスパー近郊の風景だ・・・
いや、何かが違う、何かが決定的に違う、
橋を渡って自宅への一本道をひた走る、その間にも不安はますます大きくなっている。
通りの角を曲がって、いつも見慣れた近所の様子が・・・何も無い。
立ち木も、その辺に転がっている石も、何も変わっていないのに、
自分の家も、ご近所の家ともどもにことごく無い。
「いったいどうなっているんだーっ。」
「冷静になれ」俺は自分自身に言い聞かせた。
速やかに状況を把握して行動を起こすんだ。
まずは銀行へ行こう、荷物を預けて財産(ってもね・・・)の安全を図り、
世間話に耳を傾けていれば何かわかるかもしれない。
銀行に向かってとぼとぼと歩きながらも、人様の様子に気を配る・・・
テーマーが多いなぁ、もともとこのあたりは動物の多い場所だが、
今日は特にテーマーが多い・・・何かヒントになるだろうか。
試しに雌鹿に調教を試みてみる・・・まるでだめか・・・ほんとに初心者に戻ってしまったようだ。
バックパックから刀を取り出して鹿に切りつけてみたが・・・まるで効かない・・・
転げるようにして鹿から逃げ出し、またとぼとぼと歩き出した。
鹿相手にこのざまなんて・・・なんてこった。
涙がとめどなく流れてきた、
雨風を凌げる家もなく、
戦う術もなく、
血を流しても治療することもできない。
おそらく貸し金庫のマジックアイテムも、銀行預金もゼロになっているのだろう。
このままでは、弓を作る木を切ることも、包帯を作ることもできない。
銀行の貸し金庫を開けてみて・・・予想はしていた通り・・・何もない・・・
周りの世間話に聞き耳を立ててみても、これといったおいしい話はない。
しかし、
ひとつ分かったことがる、
誰もがまったくの初心者に戻ってしまったうえに、
この状況から一人で生き抜いて行かなくてならないということだ。
例えどんな苦難が待ち受けていようとも・・・
痩せても枯れても昨日まではGMアーチャーだった俺だ、
弓一本でどうやって生きていったら良いかくらい誰より知っている。
アーチャーはいきなり始めても苦労が多いし成長も遅い、
ある程度器用になってからはじめたほうが良い、
ヒーラーとしての技能も高めておいたほうが良いし、
なにより矢羽の補給を考えなくてはならない。
それでは、早速買い物だ。
まずは、Executioner's Axe (死刑執行人の斧)を買う、
当分の間は自分で自給自足の生活をしなくてはならないから、
木を切り出して矢羽を蓄え、マキを切り出して火を起こして料理して・・・
鍛えられたきこりの技術は戦闘にも生かせるし、
動物の狩で鍛えられた戦術は、アーチャーに活かせる。
次に買うのは、はさみだ、意外に思うかもしれないが鋏は必需品だ。
大抵の捨てられているぼろきれは鋏を入れれば包帯にできる(衛生状態が心配だが)、
重くて運ぶのが困難な皮も鋏を入れれば軽くなって大量に運べる、
先のことは良く判らないが、大量の皮の備蓄が何かの役にたつかもしれない。
ちょっとした皮製の防具くらい自分で作れるようになるかもしれない。
防具もほしいところだが、金が続かないのでこの次にしよう。
防具が全く無しというのはさすがに辛いので・・・非常手段として・・・
死者のローブを着ておくとしよう・・・せこい手だが意外に効果がある様に思う。
さて、準備万端整ったところで(どこがだ?)出発しよう。
貴重品は銀行に預けていつ死んでも良いように身軽にした上で、
死刑執行人の斧を握り締めて森の中へ駆け込んで行く・・・
「モンスでもPKでも、どっからでもかかってきやがれぇ」
って、カンコン木こりをする(おいおい)・・・。
動物の死骸を見つければ、ナイフを入れて皮を剥ぎ、肉を盗り・・・
火を熾し肉を焼き、皮を持ちやすく整えあまった木材はシャフトに加工する。
なんだかアーチャーの暮らしってこんなもんだったかなぁ・・・。
強くなるためにはより強い敵と戦うのが近道なのだが、
いきなり熊と戦ってもスキルが上がる前に死んじまう・・・
そこで、あの手この手を使うわけだ、
犬を家来に従えて、熊と戦わせる、その隙に熊に切りかかるのだ、
とにかくなんとかして戦闘スキルを上げないことには生きていけない。
少なくともモンスターを倒せるようにならなくては採算ベースにのらないのだ。
STRとDEXさえもう少し上がってくれれば、なんとかなるはずだ。
いや、なんとかしてみせる。
10月17日
「ちょっと荷物が重くなってきたなぁ」
こんなときに限って大量の皮が落ちてたりするもんなんだが・・・
やっばりそうだ・・・皮が落ちてた・・・拾わないでは屑拾いの名が廃る・・・
(つうかさ、屑拾いって時点でかっこ悪いように思うけど)
やっぱりというか、当然とゆうか、重すぎて動けなくなってたりして・・・
こうゆう時はどうするんだっけ・・・どうなるんだっけ・・・
You notice Omar peeking into your belongings!
You notice Omar attempting to steal 32 gold coin from you!
ん?
「しまったぁ、やられたぁ」
qqqqqqqqqqqqqqqqqhhhhq hhhhhhhhhhhhhdDDDDDDDDDDDDDDDDDTDDDDDDDDDDD
(@@
「NPCでしょ」だとさ
ちゃうわい、こちとら生身の人間だぁ。
もう気が動転してしまって反撃どころじゃない・・・
「no」
とだけ答えるのがやっとだ
「ぁぃょ」
と、捨て台詞をのこしてそいつは去って行った・・・
くやしぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ
何も言うまい・・・行動で示すのが・・・此処の流儀だ。
10月23日
家を建てている人がいた・・・
ログハウスだ・・・ほんとのログハウスだ・・・
大量の丸太を重ねて壁を作り・・・
皮でドアを作り・・・
寸暇を惜しんで狩に精を出している俺は・・・
心に何の余裕もなく・・・
この世界で、人よりも少しでも早く、より早く成長すること・・・
他人を出し抜くことばかりを考えていた。
この世界のルールは、あまりにも非情だ、
やさしさなんてこれっぽっちも無い世界だ。
だからこそ、本当に必要なものとは、温かい心なのかもしれない。
人との出会いふれあい、それこそがここでしなくてはならないことなのだ。
俺は首切りの斧を投げ捨てると、
半完成のログハウスの門を叩いた。
本当の冒険の始まりはこれからだ。
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